しょきたつブログ(日記)

日々の生活について語っていきます。

モチベが1ミリもないのに医学部に入ってしまった話②

 今回の話は東北大に合格して以後の話となる。

 

 ずんだの洗礼を乗り越え、無事東北大学医学部に入学した俺は、案の定友達もできず、キンタマを蹴り飛ばされた時のような苦痛に満ちた表情で、入学式の列に参加していた。

 

 周りを見回すと、似合わないスーツを着て、さっき会ったばかりの友達と、まるで10年来の親友かのように、ウッキウキで大学生活を語る”かっゆい”新入生の群れが見えた。

 

「『初対面のやつと10年来の友達みたいに語り合えるやつ、危機管理能力が欠如してそうで下痢漏らした。野生を取り戻せ少年ども』っと...(ツイート)」

 

 なかなかいいねのつかないツイッターの通知欄を延々更新しながら、俺はいつの間にか、受験サロンの旧友たちがかけてくれた言葉を思い出していた。

 

 『東大以外は大学じゃない。地方大は親不孝...』

 

 『俺だったら東北大なんて、恥ずかしくて表を歩けない....』

 

 『所詮東北でイキがってるだけの敗北者....』

 

 

 涙が出そうになるのをぐっと堪える。が、ポタリと粒が画面に落ちた。

 

 『俺は今、なぜこんなFランにいるんだ....?』

 

 入学初日にして、俺は東北大に来たことを後悔し始めていた。

 

スポンサーブログ

 

 

 「はああ〜〜」

 

 列に並んでから早1時間。孤独に死の行進を続けることが耐えられなくなった俺は、一旦列を外れ、入学式ホールのトイレで時間を潰すことにした。

 

 便器に腰掛け、トイレットペーパーをカラカラと回す。入学式のためにちょっと良いホールを借りたのだろうか。ペーパーの先は三角に折りたたまれていた。

 荒んだ俺の心にはその気遣いすらもなんとなく鬱陶しい。容赦無くペーパーをちぎり、短冊に見立てて俳句を詠む。

 

 『新入生 多すぎまるで ゴキブリだ』

 

 ウンコ色の髪を揺らしながら群れている新入生(春の季語)をゴキブリにたとえた、我ながら天才的な俳句だ。

 

 「そう言えば、天才俳人たるあの松尾芭蕉も生涯独身だったんだっけ...」

 ”2ちゃんまとめ”で得た嘘くさい知識を今更になって思い出す。自分の未来が江戸と平成の壁を超えて繋がった気がして、なんとなく嫌な気分になった。

 

 (松尾芭蕉も、自分の息子が東北大に行ったらショックで俳句なんか詠めなくなるだろうな....)

  「なんで東大にしなかったの?東北大って青森とかにある田舎の大学でしょ?」と言い放った妹の顔を浮かべながら、「大」の方向に蛇口を回す。

 

 濁流に飲まれて便器の奥へと消えていくケツ拭き紙は、まるでこれからの将来を暗示しているようで、俺は思わず目を背けてしまった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 その後。

 列が消化されたタイミングで会場に突入し、余った席に座ってしばらくすると、隣に座っていた女子にツンツン、と肩をつかれた。

「あの、新入生の方ですよね?私、こっち越してからまだ友達できてなくて...もしよかったらこれから仙台見て回りません?」

「えっ......あ、良いですけど....」

 突然のお願いに胸がざわめく。

  これまで守ってきた”純潔”が今日限りで散るであろうことを、俺は股間のセンサーで確かに感じ取っていた...

 

 .....などという私文にありがちな展開も当然起こらず、孤独な入学式を終えた俺はトボトボと帰宅していた。

 

 「大丈夫...まだ大学生活は始まったばかり...まだ取り返せる...!俺はやってみせる...!」

 必死に自分を鼓舞するも、湧き出る不安に足はガクガクと震え、視界はかすみ、唇は小学校の寒中水泳ばりの紫に。俺はもうとっくに”敗北”を感じ取っていた。

 

 「....あの」

 

 その瞬間。突如後ろから声がかかった。

 

 「...はい?」

 

 「あ、すいません。新入生の方ですよね?ぼく東北大なんだけど、よかったらサークルのチラシもらってくれない?」

 

 「あ、はい、良いですけど..」

 

 「ありがとう!まだどのサークルに入ろうとか決まってない感じ?」

 

 「そうっすね...」

 

 「ならさ!1回僕らのサークルにも遊びに来なよ!新入生大募集だし、来てくれたらめちゃ嬉しい!」

 

 爽やかな笑顔、明朗快活なコミュニケーション、そして大学生らしいおしゃれな服装。(このサークルに入れば俺は買われるんじゃないか?)と思わせるだけの魅力が、確かにその人にはあった。

 

 「あ、じゃあ、予定が合えばぜひ...」

 うつむきながらモゴモゴ答える俺。

 

 「ほんと?楽しみにしてるね!しばらくはこのあたりでチラシ配ってるから、またなんかあったら声かけてね!」

 にっこり笑顔でハキハキ喋る先輩。

 

 一人でブツブツ呟きながら歩く”ヤバめ”の男にもこの神対応。これが陽キャか...

 人知れず感動しながら、俺は一礼し、先輩と別れて駅へと向かった。もはや足取りに迷いはない。大地を力強く踏みしめ、ぐっと空を仰ぐ。雲ひとつない晴天は、俺の門出を祝福してくれているようであった。

 

 このサークルに入ろう。そして自分を変えよう。

 

 心は、もう決まっていた。これからの輝かしい未来を想像して緩んでいく頰を隠すように、俺はチラシに目を落とした。

 

 

 

 『日本の未来を考えよう!憲法改正絶対反対!ともにデモに参加して、僕らの日本を取り戻そう!抵抗しなければ未来は変えられない!

 デモ日程はこちら→  

 署名はこちら→

           東北●●団体』

 

 ゴミ箱にチラシを叩き込み、俺は声を殺して泣いた。

 

 続く(次回更新未定)