しょきたつブログ(日記)

日々の生活について語っていきます。

モチベが1ミリもないのに医学部に入ってしまった話①

 春はあけぼの。

 やうやう白くなりゆく山ぎはすこしあかりて、”受験サロン”に毒された高校生が名前も知らんようなFラン私立医学部で「僕は小さい頃大病を患って入院した際にお医者様に本当にお世話になり、その経験から医者を志すようになり...」というワセジョも真っ青のクソおもんな嘘松をぶちかましたる。

 学歴しか取り柄のない人生絶望陰キャが下位国立医学部に入学してくるもおかし。

 金持ちは大人しく東京の私立へ行け。

 

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 と、いうわけで、鬱病の季節がやってきた。

 今回は、全国1千万人の学歴コンプ医学生、地方国立の田舎っぷりに絶望している新入医学生のために、去年”間違えて”医学部に入学してしまった俺が、なぜ『自分に医学部の適性があると思い込んだ』、偽ラガーすら驚愕させる勘違い男になってしまったのかを語ろうと思う。

 

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 一昨年、セミが性欲マッシマシで歌っていた季節。

 ある友達が東大を目指して予備校に通い詰め、またある友達が最後の文化祭準備で駆けずり回っている中、当時高3だった俺は一人、自室でパソコンを開いて、受験サロンに突如出現した「国立医学部生を名乗る謎の男(90割無職)」を論破しようと躍起になっていた。

 

 「『黙れ無職。中卒がネットやんなよw』.....っと」

 

 ”勝利宣言”を残してブラウザを閉じる。勝利の余韻に浸るため、みにくいレスがつく前に早めにレスバを切り上げるのが俺の矜持である。

 

 「無職を論破するのは本当に楽しいな.....」

 

 回転椅子に深ーく腰掛け、夏の日差しで若干温くなった三ツ矢サイダーをごくごくと飲みながら、”第2フェーズ”への移行準備。ブラウザをシークレットモードに切り替え、ズボンを少しずらす。

 

「これはイケる、これもイケる....ん?

 このアイコラ、首の付け根の上下で色が変わってんじゃん...

 やる気あんの?」

 

 坂上忍のような顔でアイコラを吟味する俺と、固定された笑顔を向け続ける画面越しの大島優子。この瞬間、俺は確かに優子の彼氏だった。

 見つめ合いながらの心地よい時間は、そして終わりを迎える。”何億もの命”が放たれ、無残に死んでいくのを見ながら、俺は次第に冷静になっていた。

 

 「.....国立医学部もアリだな....」

 

 信じられない言葉が、口をついて出る。

 ちなみにこの瞬間まで、俺は東大志望だった。

 

 このころ、受験サロンは完全に”医学部志向”であった。

 毎日のように『東大vs宮廷医』やら『地方国立医>>>東大』やらの、お前ら医学部専門予備校からカネもらってるんちゃう?と疑うレベルのスレッドが乱立。

 「受験サロンでニッコマ煽りをしない日はあっても、医学部ageを見ない日はない」と噂されるレベルだった。

  そんな折、友人もいなく家でネットばかりしていた俺が、サブリミナル効果で国立医学部に興味を示したのも、ある意味仕方ないことではなかろうか。

 

 『医者=安定、高収入、楽、モテる』

 

 俺の頭の中には、そんな、幸せのパンケーキよりも甘ったるい幻想が、いつの間にか刷り込まれていたのだ。

 

 「そろそろ(女の股を開く)許可証も欲しかったところだしな...」

 

 『医学生はモテすぎてアレがふやける』というレスを思い浮かべて、範馬勇次郎のような笑みが浮かぶ。

 母さんが近づいてくる足音を聞きながら、俺は静かに決意を固めた。

 下げていたズボンを上げて、ティッシュをゴミ箱に叩き込むと、『相棒』オープニングの杉下右京の格好で来着を待つ。

 

「ガチャ)山口.....

 ちょっと!なんでまたパソコンしてんの!!アンタ今年受験生でしょ!?

 そんなんじゃ東大なんて夢のまた夢よ!?」

 

 「いや、もう東大はやめた」

 

 「...え?」

 

 「母さん。オレ、医学部行って、ホンモノの勝ち組になるよ」

 

 こうして俺はアッサリと、ホンモノの負け組になった。

 

 

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 幸い、東大を目指して勉強していたおかげで、なんとか下位宮廷までなら対策が間に合いそうという話になり、真っ先に俺が提案したのは『北海道大学医学部』だった。

 理由は、「一人暮らしができるから」。

 

 というのも、『駿台で致してたら壁ドンされて、もう、ビックリすんだいw!』という、キンタロー。のモノマネよりもサムいツイートを妹に観測されてから、明らかに家での立場が悪くなっていたため、このまま家に住み続けていると、そのうちベランダに隔離される可能性があったからだ。

 

 ベランダで家畜以下の生活を送るよりは北海道で凍死した方がマシだと睨んだ、なかなかに鋭い提案だったのだが、 北大医学部は『物理と化学』選択でしか受験できず、『生物と化学』選択の俺にはそもそも受験資格がなかった。

 俺は泣く泣く北大を諦め、今後一切北海道産のジャガイモを食わないことと、いつかトウモロコシ畑を放火することを決意した。

 

 次に候補に上がったのが我が母校『東北大医学部』であり、特に不都合もなかったため、そのまま志望校になった。

 

 「とりあえず、仙台に詳しくなんないとな...」

 

 俺はブラウザを立ち上げ、今なすべきことを速やかに実行した。

 

 「伊達政宗 女体化 同人誌」

 

 

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 そして半年後。合格発表当日。ネットで合格を確認した俺は、これから始まる蝦夷地での生活にひどく怯えていた。

 

 「これから先、仙台で勝ち残っていくには、まず”ずんだ”に慣れなきゃいけない...」

 

 俺は、スーパーでヤンヤンつけボー以下の値段で売られていた枝豆を購入し、母さんに茹でてもらうことにした。

 枝豆が茹でられてる間、俺は地元の名産、落花生のことを思った。

 

 「落花生、”落下生”みたいで縁起悪いな...」

 

 嫌いな同級生が落花生食って浪人しますように、と大豆の神にお祈りしておく。

 同級生が落花生を鼻の穴に詰めて搬送されるイメージを浮かべながら、茹で上がった枝豆を潰し、砂糖を混ぜる。

 

「母さん、もちある?

 今のうちにずんだもちに慣れときたいんだ。

 どうせあっちで『ずんだもち早食いチャレンジ』とかやらされるだろうから...」

 

 もちを受け取り、焼き、ずんだをかけて食す。

 一口噛むごとに枝豆の風味が口いっぱいに広がり、つぶつぶとした食感が口内を刺激する。

 ともすれば散らばってしまいそうな枝豆の暴力性を、砂糖のまろやかさがうまく包み込み、ちょうどいいバランスが保たれていて、これは.....

 

 

 「どうなの?味の方は」

 

 「砂糖醤油の方が美味いかな」

 

 

 こうして俺は医学部に来て”しまった”。入学してからの、ヘドロみたいな生活についてはまた別枠で語ろうと思う。